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取材記事

【サンプル】規格外のトマトを「主力商品」にした農家——直販サイトで年商が2倍になるまで

2026.08.24 約21分 取材日: 2026-08-18 場所: 栃木県・たかなし農園
【サンプル】規格外のトマトを「主力商品」にした農家——直販サイトで年商が2倍になるまで
高梨 健

取材先

高梨 健

代表/たかなし農園

農業(トマト栽培・直販)

https://example.com/

市場に出せない規格外のトマトを、捨てずに売る。就農11年目の高梨さんが、直販サイトと「訳あり」の見せ方で見つけた、農業の新しい売り方。

※このページはデザイン確認用のサンプル記事です。登場する人物・企業・エピソードはすべて架空です。

栃木県で11年前にトマト農家として独立した高梨健さんは、収穫の3割近くを占める規格外品を、そのまま「主力商品」に育てた人だ。市場では値段がつかない不揃いのトマトに、直販サイトで理由を書いて売ったところ、規格品よりも先に売り切れる日が出てきた。前職はシステムエンジニア。畑に立つ生活を選んだ経緯から、就農直後の全滅と、AIとの向き合い方まで、じっくり話を聞いた。

創業経緯|サーバーの前から、父のハウスへ

システムエンジニアだった20代

――就農される前は、まったく違う仕事をされていたと伺いました。

高梨:東京のシステム開発会社で、業務システムの保守を担当していました。8年くらい働いていましたね。夜中に障害対応で呼び出されることも多くて、休みの日も携帯を手放せない生活でした。実家が栃木でトマトのハウスを小さくやっていて、父が一人でまわしていたんですが、正直、そこに戻る気は全然なかったんです。同期には農家出身が何人かいましたが、みんな「継がなくていいなら継がない」というのが本音でしたし、自分もその一人でした。

――ご実家の農園は、どのくらいの規模だったんですか。

高梨:ハウス2棟だけの、本当に小さな規模でした。父は市場に出すだけで、正直、儲かっている様子ではなかった。子どものころから「農業は大変な割に儲からない仕事」というイメージを持っていて、それもあって、自分は都会でシステムの仕事に就いたんです。

――学生時代、農業を継ぐ話は出ていたんですか。

高梨:一度も出ませんでした。父自身が「お前は好きな仕事をやればいい」と言うタイプで、進路の話で農業が出たことは記憶にありません。だからこそ、倒れた後の「継ぐかどうか」という問いが、余計に重く感じられたんだと思います。

――きっかけは何だったんですか。

高梨:父が脳梗塞で倒れたんです。幸い後遺症は軽くて済みましたが、あのハウス、来年からどうするんだという話になって。姉は嫁いでいましたし、残るのは自分しかいなかった。最初は「畑仕事なんてしたことないし、無理だ」と正直断ろうと思っていました。母からは「無理に継がなくていい、ハウスは畳んでもいい」とまで言われたんですが、それも違う気がして、決断できないまま数週間、東京と栃木を往復していました。

「継ぐ」ではなく「作り直す」つもりで戻った

――それでも戻ることにした理由は。

高梨:父の入院中に、代わりに1週間だけハウスに入ったんです。水やりと温度管理だけのつもりだったのに、トマトが育っていく様子を見ているうちに、意外と面白いなと思ってしまって。ITの仕事は画面の中で完結してしまうところがあって、目の前で育つものを扱う仕事に、新鮮さを感じたんだと思います。有給を使い切って、最終的には会社を辞める決断をしました。

高梨:ただ、そのまま父のやり方を継ぐつもりはなかったんです。父は市場に出すだけで、値段は市場が決める。それだと自分たちで工夫できる余地がない。継ぐなら、売り方も含めて作り直したいと思っていました。2012年に正式に就農して、まず着手したのはハウスをもう1棟増やすことと、直販の仕組みを一から考えることでした。

――ご家族の反応はどうでしたか。

高梨:父は複雑そうでした。継いでほしい気持ちはあったはずですが、自分の代のやり方を変えると言われて、素直に喜べなかったんだと思います。「好きにやれ」とだけ言われて、それ以上は口を出されませんでした。今思えば、それが一番ありがたい距離感でした。

――今は父と一緒に作業することはあるんですか。

高梨:体力的に無理はさせられないので、朝の水やりを一緒に見に来てくれる程度です。ただ、規格外品の話をすると、複雑そうな顔をしながらも「昔は捨てるしかなかったからな」とつぶやくことがあって、そこには納得してくれているんだと感じています。

育てることは面白かった。でも、それだけでは食べていけないというのも、最初の年でよく分かりました。

就農1年目に見えた現実

――実際に就農してみて、想像とのギャップはありましたか。

高梨:体力面はもちろんですが、一番驚いたのは「売る」という工程が想像以上に長いことでした。システムの仕事だと、作ったものが動けばそこで一区切りつきます。農業は育てて終わりではなく、そこから売り先を見つけて、実際にお金になるまでが長い。1年目は育てることに全力を使ってしまって、売る部分をほとんど考えていなかったのが、後で響きました。

――体力面では、具体的にどんな違いがありましたか。

高梨:夏場のハウス内は40度を超えます。デスクワークとは比べものにならない暑さで、最初の年は熱中症で何度か動けなくなりました。今は休憩のタイミングを体で覚えましたが、当時は加減が分からず、無理をしていたと思います。

――収入の面では、どのくらい不安がありましたか。

高梨:1年目の年収は、前職の3分の1以下でした。妻もまだいなかったので、独身の貯金で食いつなぐような生活です。それでも、育てることそのものは楽しかったので、続けられたんだと思います。楽しさと不安が同時にある、変な時期でした。

妻と二人で仕切り直す

――ご家族について伺えますか。

高梨:就農した翌年に結婚しました。妻は元々農業とは関係のない仕事をしていたんですが、ハウスを手伝ってくれるようになって、今は経営のほぼ全部を二人で見ています。正直、妻がいなかったら、後で話す全滅の年に心が折れて辞めていたと思います。

――資金面はどう用意されたんですか。

高梨:ハウスを増やすための費用は、システムエンジニア時代の貯金と、農業用の融資を組み合わせました。融資の審査では「トマトを市場に出すだけ」という前提で見られてしまって、直販の売上計画をどう説明しても、担当の方にはあまり伝わらなかった記憶があります。結局、規模は控えめに、無理のない範囲で始めることにしました。

――今振り返って、資金計画で反省している点はありますか。

高梨:直販の立ち上げ費用を甘く見ていたことです。サイトを作れば売れると思っていましたが、実際には撮影機材や梱包資材、配送のテストなど、細かい費用が積み重なりました。最初にもう少し余裕を持った計画にしておけば良かったと思います。

事業内容・強み|「規格外」を主役にする売り方

収穫の3割が「捨てるはずだった」トマト

――現在の事業について教えてください。

高梨:ハウス4棟でトマトを栽培していて、主にミニトマトと中玉です。収穫したもののうち、形が不揃いだったり、皮に少し傷があったりする規格外品が、多い時期で3割近く出ます。以前の父の代では、それは加工用に安い値段で出すか、そのまま処分していました。年間で見ると、規格外だけで数十万円分を捨てていた計算になります。

――それを直販に切り替えたわけですね。

高梨:就農して3年目くらいから、直販サイトを自分で作って売り始めました。最初は規格品だけを「うちのトマトです」という感じで売っていたんですが、正直、味と写真だけでは近所の農家さんと差がつかなかった。売上は伸びず、サイトを閉じようかとまで考えていた時期に、在庫に困って、規格外品を「訳あり」として試しに出品したんです。そこからが転機でした。

――今、規格品と規格外品の割合はどうなっていますか。

高梨:ハウス全体の収穫量で見ると規格品が7割、規格外が3割です。ただ売上と粗利で見ると、先ほど話したように規格外の比重がかなり大きくなっています。数字を分けて見るようになってから、規格外を「ついで」として扱う発想がなくなりました。

「理由を書く」だけで先に売り切れた

――規格外品が主力になったというのは、どういう経緯ですか。

高梨:訳あり品のページに、なぜ形が不揃いなのか、味は規格品と何が違うのか、写真を多めに使って説明を書いたんです。すると規格品より先に売り切れる日が出てきました。値段が安いのはもちろんですが、お客さんの反応を見ていると「安いから」というより「事情が分かって納得したから」買ってくれている感じがしました。レビューにも「見た目は気にしません、説明を読んで安心しました」というコメントが増えていきました。

高梨:スーパーだと、規格外のものは棚に並ばないので、お客さんはそもそも選べません。直販サイトなら、その裏側まで見せられる。うちは今、規格外品の売上が全体の4割くらいを占めていて、単価は規格品より安いのに、粗利で見ると規格品とほぼ同じくらい稼いでくれています。加工に回すより、直接説明して売るほうが手元に残る額が大きいんです。

――値付けはどう決めているんですか。

高梨:規格品の6〜7割くらいの価格帯にしています。最初は5割くらいまで下げていたんですが、それだと「安すぎて心配」という声があって、少し上げました。今の価格帯が今のところ一番反応がいいです。3年前からは、毎回何が入るか分からない「お楽しみ便」のような月1回の定期便も始めました。中身を選ぶ手間がお客さんにもうちにもかからないので、発送作業がかなり楽になりましたし、契約している50件ほどのお客さんのおかげで、収穫の見通しが立てやすくなりました。

直販だからできる「顔の見える」提案

――他の農家さんとの違いは、どこにあると思いますか。

高梨:正直、栽培技術そのものはベテランの農家さんの方が上だと思います。うちが勝負しているのは、育てる過程を見せることです。ハウスの様子や、収穫のタイミングをどう判断しているかを、定期的にサイトのブログで書いています。お客さんから「この前の記事に書いてあった台風対策、どうなりましたか」と聞かれることもあって、単発の買い物というより、続きものを読んでもらっている感覚があります。

――ブログはいつから書いているんですか。

高梨:直販サイトを作った初期から書いています。最初はお客さんに見せる目的というより、自分の記録として残していたんですが、それを読んだお客さんから「畑の様子が分かって安心する」と言われて、意識して発信するようになりました。

――印象的だったお客さんとのやり取りはありますか。

高梨:ある方から「離乳食に使いたいので、できるだけ小さくて柔らかいものが欲しい」というメッセージをもらったことがあります。規格外品の中には、まさにそういうサイズのものがあるので、次の発送でその条件に合うものを選んで送りました。後日「助かりました」とメッセージが届いて、今もリピートしてくださっています。市場出荷だとサイズごとに箱でまとめて終わりですが、直販だと一人ひとりの理由に合わせて選べる。これは規模が小さいうちの強みだと思っています。

――リピート率はどのくらいですか。

高梨:正確に測っているわけではないですが、注文の半分近くは以前に買ってくれた方だという感覚があります。新規のお客さんを追いかけるより、一度買ってくれた方に長く付き合ってもらう方が、うちの規模には合っていると思っています。近所の農家さんからも、規格外品の扱い方について聞かれることが増えて、今は数軒と、収穫が重なる時期に配送をまとめる相談もしています。競合というより、困りごとが似ている相手という感覚です。

加工品という「もう一つの出口」

――加工品も展開されていますね。

高梨:トマトソースとドライトマトを作っています。これも元々は、傷が深くて生食用としては出せない分を無駄にしたくなくて始めました。加工には手間がかかるので利益率としては生食用の直販より低いんですが、収穫が集中する時期に生食用が売れ残りそうなときの調整弁になっています。売り切れることを目指すより、余らせないことを目指す、という感覚に近いです。

――加工品の反応はどうですか。

高梨:直販サイトの中では規格外の生トマトに次ぐ人気です。ギフト需要もあって、季節によっては生トマトより加工品の注文が多い月もあります。ラベルにも、どのトマトを使っているか、なぜ加工に回したかを書くようにしています。

――加工は誰が担当しているんですか。

高梨:妻が中心です。私はハウスの管理で手一杯なので、加工と発送の細かい調整は妻に任せています。役割が自然と分かれていったのは、二人でやるようになってからの一番大きな変化です。

規格外品は「劣った商品」じゃなくて「説明が必要な商品」なんです。説明する場所さえあれば、ちゃんと売れる。

苦労した時期と乗り越え方|初めての全滅と、値段のつけ方

就農2年目、大玉トマトを全滅させた

――これまでで一番苦しかった時期はいつですか。

高梨:就農2年目です。それまでのミニトマトに加えて、単価が高い大玉トマトに挑戦したんですが、温度管理を誤って、収穫直前でほとんど傷んでしまいました。ハウス1棟分、丸ごとです。売上にして数十万円分が消えた計算でした。ITの仕事なら失敗してもやり直せる場面が多いですが、農業は季節が一度きりで、同じ挑戦をするのに1年待たないといけない。そのことの重さを、そこで初めて分かりました。

――大玉トマトへの挑戦は、その後どうなったんですか。

高梨:翌年、記録を見返しながら再挑戦して、なんとか収穫できました。ただ、正直に言うと大玉は今もあまり得意ではなくて、今の主力はミニトマトと中玉です。大玉は少量だけ、確認のために作り続けている感覚です。

――その時はどう乗り越えたんですか。

高梨:正直、乗り越えたというより、貯金を切り崩して食いつないだというのが実際のところです。妻にも心配をかけましたし、正直、辞めることも考えました。ただ、その年に「なぜ傷んだか」を記録に残す習慣ができたのは、後から見ると意味がありました。温度と換気のタイミングを毎日メモして、翌年は同じ時期に同じ判断をしないようにした。

――そのメモは今も続けているんですか。

高梨:形は変わりましたが続けています。今はスマホに音声で記録して、後でまとめる形です。あの全滅がなかったら、この習慣は生まれなかったと思います。

――記録をつけるようになって、他に変わったことはありますか。

高梨:失敗を人に話せるようになりました。以前は恥ずかしくて隠していましたが、記録として残していると、むしろ「去年はこう失敗したので今年はこうします」と自然に説明できるようになったんです。これは直販の説明文にも役立っています。

台風で心が折れかけた年

――他にも大きな危機はありましたか。

高梨:就農5年目に、台風でハウスのビニールが1棟分破れたことがあります。修繕費が数十万円かかって、直販がようやく軌道に乗り始めていたタイミングだったので、正直、心が折れかけました。保険には入っていたんですが、全額はカバーされませんでした。

――そこからどう立て直したんですか。

高梨:直販サイトの常連さんに、事情を正直に書いて、修繕が終わるまで発送が遅れることをお知らせしたんです。すると「気にせず待ちます」というメッセージがたくさん届いて、キャンセルはほとんどありませんでした。売上以外の部分で、続けてきたことの意味を感じた出来事でした。

――その経験は、今の経営にどう影響していますか。

高梨:悪い状況を隠さずに伝えることの大切さを、身をもって学びました。それ以来、収穫が少ない時期や品質が心配なときも、正直に書くようにしています。隠して後で分かる方が、よほど信用を失うと思うようになりました。

直販を始めた当初、注文がまったく来なかった

――直販サイトはすぐに軌道に乗ったんですか。

高梨:いえ、最初の半年はほとんど注文がありませんでした。サイトを作っただけで、見てもらう手段がなかったんです。SNSに写真を上げても、知り合い以外には届かない。正直、サーバー代とドメイン代だけ払っている状態が続いて、やめようかと思った時期もありました。注文が入っても月に数件で、続ける意味を疑うこともありました。

高梨:変わったきっかけは、地元のスーパーの催事に規格外品を持ち込んで、直接お客さんと話したことです。試食してもらいながら「これ、サイトでも買えるんです」と伝えて、その場でサイトのカードを渡す。地道ですが、そこで初めて注文が入るようになりました。ネットだけでは信用してもらえなかったものが、対面で一度話すと一気に距離が縮まる。今も新しい商品を出すときは、まず直接会える場所で反応を見るようにしています。

――催事は今も続けているんですか。

高梨:月に1回くらいのペースで続けています。売上そのものは大きくありませんが、直接会って話す場を絶やさないようにしています。サイトだけの関係になると、何かあったときに信用を失うのも早い気がして。

値段のつけ方に、いまだに迷いがある

――今でも迷うことはありますか。

高梨:値段です。規格外品を安くしすぎると「本当に品質が落ちるものなんだ」と誤解されるし、規格品に近い値段にすると訳ありの意味がなくなる。毎シーズン、少しずつ値段を変えて反応を見ていますが、正直、正解が分かった感覚はまだありません。ここは今も試行錯誤中です。天候による出来不出来もあるので、去年の正解が今年も正解とは限らないのも難しいところです。

――値段以外に、まだ迷っていることはありますか。

高梨:規模をどこまで大きくするかです。直販は今の規模だからこそ、一人ひとりに合わせた対応ができています。もし取扱量を大きく増やしたら、同じ丁寧さを保てるのか、正直分かりません。大きくすることが必ずしも良いとは限らないというのが、今の実感です。

――規模を大きくした農家さんの話を聞くこともありますか。

高梨:あります。従業員を増やして直販を拡大した知り合いもいますが、説明文の質が落ちて、逆にクレームが増えたという話も聞きました。それを聞いて、うちは無理に大きくしない方がいいのかもしれないと、今は思っています。

経営の課題・集客・採用|文章を書く時間との戦い

今、経営で一番の課題は

――今、経営で一番の課題は何ですか。

高梨:人手です。収穫期は自分と妻の二人だけでは回らなくて、近所の方に手伝ってもらっていますが、固定の従業員はいません。規模を広げたい気持ちはあるんですが、人を雇う分の固定費を、天候に左右される売上でどう支えるかが読めなくて、踏み出せていません。

高梨:もう一つは、自分がハウスと発送作業と文章書きを一人で抱えていることです。役割を分けたいのですが、直販の説明文だけは、他の人に任せると「らしさ」が薄れる気がして、結局自分でやっています。そこが時間的にはいちばん重い部分です。

――設備投資の面で悩んでいることはありますか。

高梨:ハウスの環境制御を自動化する機器の導入を検討しています。温度や換気を自動で管理できれば、台風のような突発的な事態にも対応しやすくなるはずですが、初期費用が高くて、まだ踏み切れていません。

――数字の見方も就農当初と変わりましたか。

高梨:最初は売上しか見ていませんでした。今は規格品と規格外品、加工品を分けて、それぞれの粗利を見るようにしています。売上が大きくても手元に残らない商品と、売上は小さくても粗利が厚い商品があると分かってからは、規格外品にかける手間、写真を増やしたり説明を丁寧に書いたりする時間を、以前より増やすようになりました。

集客はどうされていますか

――集客はどうされていますか。

高梨:広告費はほとんど使っていません。サイトのブログ記事と、地元イベントでの対面が中心です。検索から来てくれる方が一定数いて、「トマト 規格外 通販」のような言葉で調べて来てくれる方が多いです。SNSは苦手で、更新が続かないので、最近は無理に手を広げず、サイトの記事を増やすことに絞っています。

――口コミのようなものはありますか。

高梨:定期便のお客さんが、知人にうちのサイトを紹介してくれることがあります。紹介で来た方は、最初から警戒心が薄くて、規格外品にもすぐ納得してくれる印象があります。数としては多くありませんが、一番ありがたい集客経路です。

――記事を書く時間はどう作っていますか。

高梨:朝は4時台から畑に出ているので、夜に文章を書く体力はほとんど残っていません。今は畑仕事の合間にスマホに向かって、今日気づいたことをそのまま話して録音しています。それをAIに文字にしてもらって、記事の形に整えてもらう。書く作業そのものの負担は、以前と比べてかなり減りました。月に3本くらい出せるようになったのは、この仕組みができてからです。

AIに任せる部分と、任せない部分

――AIとの付き合い方で、決めていることはありますか。

高梨:ブログ記事の下書きと、栽培記録の整理はAIに任せています。ただ、お客さんから届く質問への返信だけは、必ず自分の言葉で書くようにしています。「離乳食に使いたい」のような個別の事情に応じた返信を、型通りの文章で返してしまったら、直販をやっている意味がなくなると思うからです。ここは今後も変えないつもりです。

話すのは苦にならないんです。書くことをAIに手伝ってもらえるようになって、初めて「発信を続けられる」体になった気がします。

採用について

――採用についてはどうお考えですか。

高梨:正直、まだ本格的には動いていません。収穫期だけ手伝ってもらえる方を探すくらいで、固定の人を雇う踏み込みはできていない。求人を出しても、農業未経験の方にどこまで任せられるか自信がなくて、二の足を踏んでいます。ここは今後の課題として、はっきり残っています。

――収穫期の手伝いは、どうやって見つけているんですか。

高梨:近所の知り合いのつながりが中心です。求人サイトに出したこともありますが、応募がほとんどなくて、結局は人づてに頼ることになっています。この状態がいつまで続けられるか、正直不安はあります。

今後の展望|次にやりたいこと

直販の比重をさらに上げたい

――これから挑戦したいことはありますか。

高梨:規格外品の説明を、もっと細かく出せるようにしたいと思っています。今は「訳あり」でひとくくりにしていますが、傷の理由や大きさごとに分けて、お客さんが用途に合わせて選べるようにしたい。離乳食に使いたい方、料理用に量が欲しい方、それぞれ欲しいものが違うので。

――販路を広げる予定はありますか。

高梨:市場出荷は今も一定量続けていますが、天候不順のときの調整弁として残しておく形で、主軸はあくまで直販の比重を上げていきたいと思っています。

収益の柱をもう一本作りたい

――トマト以外の展開も考えていますか。

高梨:少しだけ、加工品のラインを増やしたいと思っています。トマトだけだと収穫期に売上が集中してしまうので、年間を通して注文が入る商品があれば、経営の波を小さくできる気がしています。まだ具体的な形にはなっていませんが、考え続けているテーマです。

次の世代に売り方を伝えたい

――他にやりたいことはありますか。

高梨:近くの新規就農者にも、この売り方を教えたいと思っています。規格外品の扱いで悩んでいる農家は多いはずなので。うちのやり方がそのまま当てはまるとは限りませんが、考え方だけでも共有できればと思っています。

――読者へひとことお願いします。

高梨:形が不揃いなものにも、ちゃんと理由と価値があります。それは農業だけでなく、どの仕事にも言えることなんじゃないかと、この10年で思うようになりました。

取材を終えて

「規格外」という言葉を、高梨さんは一度も否定的に使わなかった。むしろ、それをどう説明すれば伝わるかを、ずっと考え続けてきた人だという印象を受けた。就農2年目の全滅も、台風での被害も、直販が半年間まったく売れなかった時期も、恥ずかしがらずに具体的な数字で語ってくれたのが印象的だった。取材の間、何度も「妻がいたから続けられた」という言葉が出てきたのも印象的で、経営の判断と家族の支えは、この規模の農業では分けて語れないものなのだと感じた。AIに任せているのは「書く」という作業だけで、何を書くか、誰に何を伝えるかという判断は、最後まで本人の手元に残っている。効率化の先に何を残すかを、自分で決めている人の話だった。

(取材・文:編集部/取材日:2026年8月18日)

高梨 健

取材先

高梨 健

代表/たかなし農園

農業(トマト栽培・直販)

1979年生まれ。IT企業勤務を経て2012年に就農。ハウス栽培のトマトを中心に、加工品と直販サイトを展開。

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