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取材記事

【サンプル】「記帳代行はもうやらない」——顧問先を半分に減らした税理士が選んだ仕事

2026.08.05 約20分 取材日: 2026-07-30 場所: 東京都中央区・柳田税理士事務所
【サンプル】「記帳代行はもうやらない」——顧問先を半分に減らした税理士が選んだ仕事
柳田 修

取材先

柳田 修

所長・税理士/柳田税理士事務所

税理士事務所

https://example.com/

クラウド会計とAIで記帳の単価が下がり続けるなか、柳田さんは記帳代行そのものをやめた。顧問先が半分になっても、売上は落ちなかったという。

※このページはデザイン確認用のサンプル記事です。登場する人物・企業・エピソードはすべて架空です。

クラウド会計とAIの普及で、記帳代行の値段は下がり続けている。かつて事務所の主力だったこの仕事を、柳田修さんは思い切って手放した。顧問先の数は半分になったが、売上は落ちなかったという。何を辞め、何を残したのか。東京・中央区の事務所で、その判断の中身を聞いた。

創業経緯|リーマンショックの年に、資金繰りを本業にすると決めた

大手事務所での8年

――そもそも、会計の仕事を選んだきっかけは何だったのですか。

柳田:実家が小さな工務店で、子どもの頃、月末になると父が机の上で電卓を叩きながら難しい顔をしているのを何度も見ていました。当時は何をしているのか分かりませんでしたが、後から思えばそれが資金繰りだったんだと思います。数字が読めれば、あの難しい顔を減らせる人を助けられるかもしれない。そんな漠然とした思いが、会計を勉強したそもそものきっかけです。

――税理士になるまでの経歴を教えてください。

柳田:大学で会計を勉強して、資格を取って、そのまま大手の会計事務所に入りました。担当は中小企業の記帳と決算書づくりです。8年ほどいましたが、担当する会社が一人で100社近くあって、正直、1社あたりにかけられる時間は年に数時間しかありませんでした。決算書を作って、税金を計算して、それで終わり。社長と話すのは、せいぜい年に一度の決算報告の場だけ。それも15分くらいで終わることが多かったです。

物足りなさをはっきり感じたのは、担当していた会社の一つが銀行融資を断られたと、後になって人づてに聞いたときでした。決算書は毎年うちで作っていたのに、断られた理由も、その後どうなったのかも、私は何も知らなかった。数字はずっと見ていたのに、会社のことは何も見ていなかったんだと、そのとき初めて気づいたんです。悔しさよりも、恥ずかしさのほうが大きかったのを覚えています。

開業した年が、たまたまその年だった

――2008年に独立されていますね。

柳田:独立を決めたのは前の年でしたが、実際に事務所を構えたのが2008年でした。世間で言う、リーマンショックの年です。開業した途端、周りの中小企業が資金繰りで次々と苦しくなっていく。当時はまだ何の実績もない、看板を出したばかりの事務所でしたが、「資金繰り表の作り方を教えてほしい」「銀行に何を持っていけばいいか分からない」という相談だけは、なぜか途切れずに来ました。

大手事務所にいたときに感じていた「数字の先にある会社の事情まで見たい」という思いと、目の前で次々に起きている資金繰りの危機が、たまたま同じ時期に重なったんです。これを専門にしようと決めたのは、狙っていたというより、流れに乗った部分が大きいですね。あのタイミングでなければ、今も普通の記帳代行の事務所をやっていたと思います。

――開業当初は、経営自体も苦しかったのでは。

柳田:苦しかったです。資金繰りの相談だけでは事務所が食べていけないので、最初の5年くらいは記帳の仕事も何でも受けていました。夜は資金繰りの勉強をして、昼は普通の記帳作業をする、という生活でした。それでも「専門は資金繰りです」と名乗り続けていたら、少しずつ、それを目的に来る人が増えていった感覚です。

――独立するとき、身近な方の反応はどうでしたか。

柳田:妻には正直、心配されました。子どもも小さくて、収入が不安定になるのは目に見えていましたから。それでも「資金繰りの相談を専門にする」と言ったとき、妻が「うちの実家も、昔そういう相談ができる人がいたらよかったと思う」と言ってくれたのは覚えています。妻の実家も小さな商売をしていて、苦しい時期があったので。あの一言がなければ、もう少し迷っていたかもしれません。

最初の顧客との出会い

――専門を名乗ってから、最初に来た相談を覚えていますか。

柳田:覚えています。近所の印刷会社の社長さんでした。開業して半年くらいのころ、たまたま近くの食堂で相席になって、世間話のつもりで「今、税理士を探している」と言われたんです。名刺を渡したら、翌週本当に事務所に来てくれました。当時はまだ資金繰り表のテンプレートも自分で作ったばかりで、正直、見せるのが恥ずかしいくらいの出来でした。

それでも、その社長さんが「今までの税理士は数字を見せてくれるだけだったけど、これは一緒に考えてくれる感じがする」と言ってくれて、今でもその言葉が事務所のやり方の原点になっています。その会社は今も顧問先です。もう15年以上の付き合いになります。

事業内容・強み|資金繰り表を、社長と一緒に作る

何を・誰に提供しているか

――事務所の中心の仕事を教えてください。

柳田:資金繰りの相談と、金融機関向けの事業計画づくりです。対象は従業員10〜30人くらいの会社が多いです。決算書を作るだけの事務所ではなく、「この先半年、お金がいつ足りなくなるか」を一緒に見る事務所だと思ってもらえればいいと思っています。

具体的には、毎月の資金繰り表を一緒に作ります。作ってお渡しするのではなく、社長の隣に座って、一行ずつ「この入金は本当にこの月に入りますか」「この支払いは前倒しできませんか」と確認しながら作る。数字を作る作業そのものに社長を巻き込むことで、初めて自分の会社の資金繰りが「自分のもの」になる。任せきりにすると、机の引き出しにしまわれるだけの資料になってしまいます。

――他の税理士事務所と比べて、進め方に違いはありますか。

柳田:多くの事務所は、決算が終わったタイミングで年に1回、まとめて資料を作ります。うちは毎月です。月末に社長と1時間、資金繰り表を更新する時間を必ず取る。これを続けていると、資金が厳しくなる兆候を、実際に厳しくなる3〜4か月前には見つけられるようになります。危機になってから相談を受けるのと、兆候の段階で相談を受けるのとでは、できる手の数が全然違います。

――事業計画書は、どのくらいの時間をかけて作るのですか。

柳田:簡単なものでも1週間、複雑な資金繰りが絡む場合は3週間ほどかかります。社長へのヒアリングを2〜3回行って、そのたびに数字を作り直す。途中で「思っていたより出店の準備に時間がかかりそうだ」など、新しい事情が出てくることも多いので、一度作ったら終わりということはほとんどありません。出来上がった計画書より、作る過程で社長自身が数字に詳しくなることのほうが、実は価値があると思っています。

銀行に同行する

――他の税理士事務所との違いは、どこにあると思いますか。

柳田:融資の相談のとき、実際に銀行や信用金庫の面談に同席することです。事業計画書を渡すだけの事務所は多いですが、担当者がその場で聞いてくる細かい質問に、社長一人で答えるのは大変です。「この売上の伸びの根拠は」「この費用は今後も続くのか」といった質問に、資料を作った側が横で補足する。それだけで、通る話が通らなかったりします。

金融機関側からすると、税理士が同席する会社は「数字を管理できている会社」に見えるらしく、印象が違うと担当者から直接言われたこともあります。同席するようになってから、融資の通過率が明らかに上がった実感があります。件数を数えているわけではないので正確な数字ではありませんが、感覚としては7割くらいは通っている印象です。

――顧問料はどのように決めているのですか。

柳田:月々の顧問料に加えて、金融機関への同行や事業計画書の作成は、別途スポットで請求しています。以前は「顧問料に全部含める」という形にしていましたが、それだと同行の回数が増えるほど、事務所側が損をする仕組みになっていました。今は、同行1回につきいくら、事業計画書の作成にいくら、と分けています。

最初にこの説明をすると、少し身構える社長さんもいます。ただ、「必要なときだけ頼んでもらえればいい」という形のほうが、逆に相談してもらいやすくなりました。毎月の顧問料に全部詰め込むと、社長側も「まだこんなことまで聞いていいのか」と迷ってしまう。分けたことで、遠慮なく声をかけてもらえるようになったと思います。

金額の目安を聞かれることも多いので、面談の最初に「同行1回で3万円前後、事業計画書の作成は案件の規模に応じて10万円台からです」と先に伝えるようにしています。後出しで金額の話をすると、それだけで信頼を失うことがあるので、最初にはっきり言うことを徹底しています。

忘れられない仕事

柳田:3年前、部品加工の会社から相談を受けました。長年の取引先が急に倒産して、売上の3割が一気に消えた。信用金庫に事業計画を出したものの、一度は「今の状況では難しい」という反応でした。

そこから2週間、毎晩のように社長と資金繰り表を見直しました。削れる費用はどこか、待ってもらえる支払いはどれか、前倒しできる回収はないか。新しい取引先を探す動きも並行して、その進捗も計画に反映させていく。数字を一つずつ積み直して、計画を作り直しました。最終的に融資は通りましたが、通った瞬間より、社長が後になって「あのとき、もう畳むしかないと思っていた」と話してくれたことのほうが、私にとっては大きい出来事でした。会社は今も続いていて、去年、新しい取引先向けの生産が増えたと連絡がありました。

数字を直すだけなら、税理士でなくてもできます。数字の裏にある「畳むしかない」という気持ちに気づけるかどうかが、仕事の分かれ目だと思っています。

――同席しても、うまくいかないことはありますか。

柳田:あります。5年前、飲食店の経営者から相談を受けて、何度も計画を練り直したのですが、結局融資は通らず、その会社は半年後に店を閉じました。今でも、あのときもっと早く相談を受けていれば違う結果になったのではないかと考えることがあります。うまくいった話ばかりが記憶に残りやすいですが、通らなかった案件のほうが、実は自分のやり方を見直すきっかけになっています。

強みを支える「型」

――資金繰り表を一緒に作るというやり方は、どうやって定着させたのですか。

柳田:最初は毎回、思いつきでヒアリングしていました。ある時期から、聞く順番を固定するようにしました。まず売上の入り方、次に固定費、そのあと変動費、最後に借入の返済。この順番で聞くと、社長自身が「あ、ここが抜けていた」と自分で気づく瞬間があるんです。型を決めたことで、私の経験に関係なく、所員が同席してもある程度同じ精度で聞けるようになりました。

――型があると、AIによる自動化とも近くなりそうですね。

柳田:近いと言われることがあります。実際、ヒアリングした内容を資金繰り表の形式に整えるところは、今はAIにかなり手伝ってもらっています。ただ、聞く順番を守りながらも、社長の話し方や表情の変化を見て、次にどこを深く聞くかを変えるのは、まだ人の判断です。型は骨組みで、そこに何を積むかは毎回違う。骨組みだけをAIに置き換えても、うちの強みにはならないと思っています。

――同業の税理士から見ると、柳田さんのやり方はどう見られていますか。

柳田:同業者の勉強会で話すと、「手間がかかりすぎる」とよく言われます。実際、1件の資金繰り表を仕上げるまでに、面談だけで月に1時間、資料の準備にさらに数時間かけています。効率だけを考えたら、明らかに非効率です。ただ、効率の良さで比べられる土俵に、うちはもう乗っていないつもりです。比べられるとしたら、社長がどれだけ安心して相談できるかの部分だけだと思っています。

苦労した時期と乗り越え方|安さの競争に巻き込まれた3年間

クラウド会計の衝撃

――記帳代行をやめる前は、どんな状況だったのですか。

柳田:2015年前後から、クラウド会計を使った記帳代行の値段がどんどん下がっていきました。銀行口座やカードの明細を自動で取り込んで仕訳する仕組みが広まって、月1万円を切る事務所も出てきた。うちのような、担当者が一つひとつ確認して入力するやり方では、価格でとても勝てなくなりました。

顧問先の何社かから「もう少し安くならないか」と言われる回数が増えて、正直、事務所の空気が悪くなっていました。値下げに応じれば所員の給料を上げられない。応じなければ顧問先が離れる。どちらを選んでも先が見えない状態が、3年近く続きました。

――所員の方々にも影響があったのですね。

柳田:ありました。給料を上げられない時期が続いて、若い担当者が2人、続けて辞めていきました。一人は「同じ作業を安い値段でこなす仕事に将来が見えない」とはっきり言われました。返す言葉がありませんでした。安い仕事を件数でこなすしかないと、私自身も思い込んでいて、事務所全体が疲弊していたと思います。

――値下げの動きは、今も感じますか。

柳田:感じます。最近は、AIがほぼ自動で決算書まで作ってくれるという広告を、駅の看板で見かけるようになりました。正直、見るたびに少し胸がざわつきます。ただ、あの広告が対象にしているのは、うちがもう記帳を手放した層のお客様なんです。今は「うちが失うもの」ではなく「うちが元々戦っていない場所の話」だと考えるようにしています。それでも、完全に平気というわけではありません。

記帳をやめる、という決断

――そこからどう判断を変えたのですか。

柳田:2023年に、記帳しか頼まれていない顧問先には、事情を説明して他の事務所を紹介すると決めました。正直、怖かったです。顧問先が減れば売上が減る。所員の雇用にも関わる。決めるまでに1年近く迷って、所員にも何度も相談しました。「今の状態を続けるほうが、実は危ないのではないか」という一人の言葉で、ようやく踏み切れた感じです。

実際に、それまでの顧問先のうち半分近くが離れました。最初の数か月は分かりやすく売上が落ちて、正直「間違えたかもしれない」と思う夜もありました。ただ、残ったのは「銀行に説明する資料が欲しい」「資金繰りを一緒に見てほしい」という顧問先ばかりで、単価は以前の3倍近くになった。半年経つ頃には、件数は半分でも、事務所全体の売上は元の水準に戻っていました。

――売上が戻るまでの半年間、事務所の雰囲気はどうでしたか。

柳田:正直、暗かったです。所員も「本当にこれで良かったのか」という顔をしていました。私も毎月の売上を見るのが怖くて、経理担当に確認するのを後回しにしていた時期があります。ただ、離れていく顧問先への対応と、残った顧問先との面談の質を上げることに集中するしかなくて、下を向いている時間はあまりなかったのも事実です。振り返ると、忙しさに救われた部分もあります。

――離れる顧問先には、どう伝えたのですか。

柳田:電話ではなく、必ず一社ずつ会いに行きました。「記帳の値段では、もううちは選ばれる理由がありません。代わりに、条件の合う事務所を3社ほど紹介させてください」と正直に話しました。中には10年以上の付き合いの会社もあって、正直、一番気が重かったのはそこです。長年やってきた会社の社長に「もう見なくなります」と言うのは、思っていた以上につらかった。ただ、怒られたことは一度もなくて、逆に「ちゃんと理由を話してくれてよかった」と言われることが多かったです。

変えたのは仕事だけじゃない

柳田:この3年間で一番変わったのは、私自身の考え方です。「顧問先を減らす」のがあれほど怖かったのは、件数がそのまま事務所の価値だと思い込んでいたからでした。今は、1件にどれだけの時間をかけられるかのほうが、事務所の価値だと思っています。とはいえ、紹介してくれた同業者に断りの連絡を入れるときは、今でも気が重いです。まだ完全に迷いが消えたわけではありません。

経営の課題・集客・採用|今の一番の悩みは、人を育てること

経営で一番の課題

――今、経営で一番の課題は何ですか。

柳田:人材の育成です。記帳の仕事なら、やり方を教えれば、ある程度の期間でできるようになります。でも資金繰りの相談は、社長の話を聞いて、言っていないことまで想像する力が必要で、これはマニュアル化がとても難しい。今、所員5人のうち、この仕事を単独で任せられるのは私ともう一人だけです。

育てるための決まった型がなくて、結局、私が同席する面談に一緒に入ってもらって、感覚をつかんでもらうという古い方法しかできていません。効率が悪いのは分かっているのですが、他のやり方がまだ見つかっていないんです。

――採用の面接では、どんな人を見極めようとしていますか。

柳田:数字が得意かどうかより、人の話を最後まで黙って聞けるかどうかを見ています。面接で、あえてこちらが少し長めに話して、途中で相手が結論を急いで遮ってこないかを見ることがあります。意地悪な見方だとは思うのですが、資金繰りの相談では、社長が話の途中で本音をこぼすことが多いので、そこを遮ってしまう人だと、うちの仕事は向いていないんです。

――これまでの採用で、うまくいかなかった経験はありますか。

柳田:3年前、経験豊富な中途の方を採用したのですが、半年で辞めてしまいました。前職では大きな事務所で記帳だけを担当していた方で、面接では「もっと会社の中身に関わりたい」と話してくれていたのですが、実際に社長との面談に同席してもらうと、数字の話に戻したがる傾向が強くて、なかなか合わなかった。

辞めるときに言われた「聞くよりも、正しい答えを早く出したくなる」という言葉は、今でもよく覚えています。人を採るときに、資格や経験だけでは分からない部分があると痛感しました。それ以来、面接だけでなく、実際の面談に一度同席してもらってから最終判断をするようにしています。

――採用がうまくいった例もありますか。

柳田:去年入った所員は、前職が地方銀行の融資担当でした。会計の経験はありませんでしたが、社長の話を聞いて、何を心配しているのかを言葉にする力がもともとあった。今、資金繰りの面談に一番早く慣れたのはこの所員です。会計の知識は後からでも教えられますが、聞く力は教えるのが本当に難しいので、こういう人に出会えたのは大きかったです。

評価の基準を変えた

――所員の評価はどのようにしていますか。

柳田:以前は、担当している件数と、その分の売上で評価していました。今は、それに加えて、社長からの紹介がどれだけ来ているかも見るようにしています。紹介が多いということは、面談の質が高いということだと思うので。件数だけを追う評価だと、また記帳代行時代の考え方に戻ってしまう気がして、意識的に変えました。

集客はどうしているか

――集客はどのようにされていますか。

柳田:一番多いのは、信用金庫や銀行の担当者からの紹介です。融資の相談に同席した実績が積み重なって、担当者のほうから「この会社、話を聞いてもらえますか」と連絡が来るようになりました。広告は一度も出したことがありません。

ホームページには、資金繰り表の作り方や、融資の面談で実際に聞かれる質問をまとめた記事を、月に1本くらい載せています。ネタ探しに困ったことはなくて、顧問先から同じような質問を何度も受けるので、それをそのまま記事にしているだけです。文章を書く時間が取りにくいので、話した内容の要点をAIに整えてもらって、事実と違う部分だけ私が直しています。

――ホームページからの相談は、実際にどれくらいありますか。

柳田:月に1〜2件くらいです。多くはありません。ただ、その1〜2件は、記事を読んで「うちの悩みと同じだ」と思って連絡してくれる方なので、初回の面談で話が早い。紹介と合わせて、今は新規の相談自体は途切れずに来ている状態です。数を増やすことより、来てくれた方との相性を大事にしたいと思っています。

――お客様とのやり取りでは、どんなツールを使っていますか。

柳田:チャットツールを顧問先ごとに用意して、資金繰り表の更新や、ちょっとした数字の質問はそこでやり取りしています。メールより早く返事が来るので、社長側も気軽に聞いてくれるようになりました。ただ、深刻な相談ほど、チャットではなく電話か対面に切り替えるようにしています。文字だけだと、こちらが状況の深刻さを読み違えることがあるので。

採用とAIとの距離感

――採用についてはどうお考えですか。

柳田:正直、今の規模で新卒を採る余裕はまだありません。中途で、他の事務所で記帳中心の経験を積んだ人に声をかけることが多いです。「もっと社長と話す仕事をしたい」という人には、うちのやり方が合うと思っています。

仕訳の確認や、決算書の数字が前年とどう変わったかのチェックには、事務所全体でかなりAIを使うようになりました。おかしな数字にすぐ気づけるようになって、確認の時間はかなり減りました。ただ、社長が本当に困っていることは、数字には出てきません。「息子に継がせたいが、まだ言い出せていない」というような話は、事務所に来て、雑談の中でふと出てくる。ここは今後も、AIに渡すつもりはありません。

数字のチェックは機械に任せられます。でも「言い出せていないこと」に気づくのは、まだ人にしかできない仕事だと思っています。

今後の展望|資金繰りの相談を、当たり前のものにしたい

これから取り組みたいこと

――これから取り組みたいことはありますか。

柳田:資金繰りの相談は、経営が苦しくなってから来る人がまだ多いんです。本当は、苦しくなる前に一度資金繰り表を見せてもらえれば、防げる危機はたくさんある。もっと早い段階で、気軽に相談してもらえる関係を増やしていきたいと思っています。

そのためにも、この仕事を私一人で抱えず、所員に少しずつ渡していく仕組みを作らないといけません。それが今の一番の課題でもあり、これからの展望でもあります。急に答えが見つかるものではないので、まずは同席の回数を地道に増やすところから始めています。いつか、ヒアリングの型だけをまとめた簡単な研修用の資料を作って、業界の若手にも公開できたらと考えています。うちの中だけで抱えている必要はない話だと思うので。

――具体的に、いつ頃までに実現したいという目標はありますか。

柳田:3年以内には、資金繰りの面談を単独で任せられる所員を、今の2人から4人に増やしたいと思っています。数字だけの目標ですが、そこまでできれば、私が同席しなくても回る面談が増えて、より多くの会社を見られるようになるはずです。

――ご自身の事務所の将来像として、目指す規模はありますか。

柳田:大きくするつもりはあまりありません。今の所員5人という規模は、全員の顔と家庭の事情までなんとなく分かる、ぎりぎりの人数だと思っています。これ以上増えると、私が把握できる範囲を超えてしまう。件数を追うより、今のメンバーで、もう少し深く関われる会社を増やしていきたいです。

読者へ

――読者へ、ひとことお願いします。

柳田:決算書は、去年のことしか教えてくれません。今、経営に不安を感じている方には、来月・来年のお金の話を、税理士とぜひしてほしいと思います。相談するのに、早すぎるということはありません。

取材を終えて

「安さ」から降りる決断は、どの業種でも怖い。柳田さんはその怖さを1年近く抱えたまま、記帳代行を手放した。数字の管理を効率化する道具が増えるほど、人にしか聞けない話の価値が上がる——そのことを、事務所の売上そのもので証明した取材だった。まだ迷いは残っていると本人は言うが、その迷いごと語ってくれたことが、一番の説得力だったように思う。数字を追いかける仕事だからこそ、数字にならない部分を大事にする——そのバランスの取り方こそが、この事務所の本当の強みなのだろう。

(取材・文:編集部/取材日:2026年7月30日)

柳田 修

取材先

柳田 修

所長・税理士/柳田税理士事務所

税理士事務所

税理士。2008年開業。中小企業の資金繰り相談を専門とし、金融機関向けの事業計画づくりを支援する。所員5名。

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