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取材記事

【サンプル】ランチをやめて、夜だけの定食屋に——売上を落として利益を残した店主の計算

2026.07.05 約20分 取材日: 2026-06-27 場所: 東京都北区・定食 ほりうち
【サンプル】ランチをやめて、夜だけの定食屋に——売上を落として利益を残した店主の計算
堀内 昇

取材先

堀内 昇

店主/定食 ほりうち

飲食(定食屋)

https://example.com/

「ランチは儲からない」と分かっていても、やめられない店は多い。堀内さんは実際にやめた。売上は2割減ったが、手元に残るお金と、体力は増えた。

※このページはデザイン確認用のサンプル記事です。登場する人物・企業・エピソードはすべて架空です。

東京・北区の商店街の外れ、カウンター10席だけの小さな定食屋。「定食 ほりうち」の堀内昇さんは、15年続けてきたランチ営業をある日やめた。「ランチは儲からない」というのは飲食店ではよく言われる話だが、実際にやめる店は少ない。売上は2割落ちたが、堀内さんの手元に残るお金と体力は、むしろ増えたという。その計算と決断の中身を聞いた。

創業経緯|板前を辞めて、自分の店を持った理由

調理師としての前職

――開業前は、どんなお仕事をされていたのですか。

堀内:調理師の学校を出て、最初は割烹料理の店で10年ほど修業しました。その後、居酒屋の厨房を任されるようになって、そこで7年くらい働きました。板前としての腕はそこで鍛えられたと思います。ただ、任される裁量が大きくなるほど、経営者の考えとぶつかることも増えていきました。

――どんな部分でぶつかったのですか。

堀内:味よりも原価率を優先する指示が増えていったんです。安い食材に変えろ、量を減らせ、と。お客さんの顔よりも数字を見て仕事をしているような感覚になって、それが自分には合わなかった。自分の名前で店をやれば、その優先順位を自分で決められると思ったんです。

――修業時代で、今でも役立っていることはありますか。

堀内:煮物の火加減です。割烹の店では、煮魚一つに何十分も付き合わせてもらいました。今のうちの店の看板メニューも、あの頃に叩き込まれた火加減がベースになっています。厳しい修業でしたが、あれがなければ今の店の味は出せていないと思います。

開業の経緯

――独立を決めたきっかけを教えてください。

堀内:40歳を過ぎたころ、このまま雇われで終わるのかと考えるようになりました。妻も同じ業界で仲居として働いていたので、二人でやれば人件費を抑えて小さく始められると話し合いました。2011年に、今のこの場所で開業しました。物件は前が惣菜屋で、居抜きで安く借りられたのが大きかったです。

――開業資金はどうされたのですか。

堀内:二人の貯金と、少額の融資でなんとか形にしました。厨房機器は中古を集めて、内装もほとんど自分たちで手を入れました。今思えば無理をしていましたが、当時は勢いだけで押し切れると思っていたんです。

――なぜ定食屋という形態を選んだのですか。

堀内:居酒屋よりも定食屋のほうが、毎日同じ時間に来てくれるお客さんとの距離が近いと思ったからです。一杯やる場所より、日々の食事を任せてもらう場所を作りたかった。あとは単純に、自分が一番得意なのが定食の献立を組むことだったので、無理なく続けられる形を選んだというのもあります。

――店の名前を、自分の名字にしたのはなぜですか。

堀内:格好つけた店名をいくつか考えたんですが、妻に「らしくない」と言われました。凝った名前より、自分の名前を出したほうが、責任の持ち方がはっきりすると思って「定食 ほりうち」にしました。今思うと、シンプルな名前で良かったです。看板にも書きやすいですし。

最初の頃の定食屋

――開業当初の営業スタイルは、今と同じでしたか。

堀内:いえ、最初からランチと夜の両方をやっていました。近くに工場や事務所があって、ランチには行列ができることもありました。夜は近所の常連さんが中心で、両方やることで生活は安定していました。当時は「両方やるのが当たり前」だと思っていて、疑いもしませんでした。

――忙しさはどれくらいでしたか。

堀内:朝5時に仕込みを始めて、ランチをやって、休憩もそこそこに夜の仕込みをして、閉店は22時過ぎ。それが週6日続きます。体力はありましたし、忙しいことが店の証だと思っていたので、当時は特に苦にはなりませんでした。

――当時のご自身に、今伝えたいことはありますか。

堀内:「そのペースは長く続かない」と伝えたいです。当時は30代でしたから体力で乗り切れていましたが、その働き方をそのまま続けていたら、もっと早くに体を壊していたと思います。忙しいことに酔ってしまって、数字も体力も見ないまま突き進んでいました。

――開業当初、失敗したことはありますか。

堀内:最初の半年は品数を増やしすぎて、仕込みが間に合わず、お客さんを待たせてしまうことが何度もありました。「あれもこれも出せる店」に見せたかったんだと思います。品数を減らしてからのほうが、むしろお客さんの満足度が上がったのは、今から思えば当然のことでした。

事業内容・強み|献立を減らすほど、味が濃くなった

定食屋としての強み・メニュー考え方

――「定食 ほりうち」の献立の考え方を教えてください。

堀内:日替わりを1品だけにしています。焼き魚、煮魚、生姜焼きのような定番を、季節の食材で回す感じです。メニューを絞っているのは、その分1品にかけられる仕込みの時間が増えるからです。品数を多く出す店だと、どうしても仕込みが浅くなる部分が出てきますが、うちは煮物なら半日かけて煮込む余裕があります。

――品数を絞ることに、迷いはなかったですか。

堀内:最初は「選べないと寂しいのでは」と心配していました。でも実際は、選ぶ手間がないことを喜ぶお客さんのほうが多かった。カウンター10席の小さな店で、あれこれ選ばせるより、「今日はこれです」と出すほうが、うちの規模には合っていたんだと思います。

――献立を決める基準は何ですか。

堀内:まずは市場でその日一番良い魚や野菜を見て、そこから逆算します。決まった仕入れ先の担当者とは20年近い付き合いで、「今日はこれが良い」と教えてもらうことも多いです。献立を先に決めて材料を無理に揃えるのではなく、良い材料があるから献立が決まる、という順番を大事にしています。

――味付けで意識していることはありますか。

堀内:濃すぎず、薄すぎず、家庭の延長線上にある味を目指しています。飲食店らしい強い味付けにすると、最初はおいしく感じても、毎日は食べられません。うちは「毎日来てもらう店」なので、飽きない味であることを一番大事にしています。

――季節ごとに変えていることはありますか。

堀内:汁物の温度と濃さです。夏は塩分を少し控えて冷めても飲みやすいように、冬は逆にしっかり温まる濃さにしています。同じ献立でも、季節によって微妙に手を加える。常連さんはそういう変化に案外気づいていて、「今日の汁、冬らしくなったね」と言われると、こちらも嬉しくなります。

常連客との関係

――常連さんとの関係で、大事にしていることはありますか。

堀内:顔を見て、いつもと違うと思ったら聞くようにしています。「今日、顔色悪いですね」とか。カウンターだけの店なので、距離が近いぶん、体調や機嫌の変化に気づきやすいんです。飲食店というより、近所の人の様子を見る役目も少し兼ねている感覚があります。

――印象的なやり取りはありますか。

堀内:一人暮らしの常連さんが、3日続けて来なかったことがありました。心配になって、失礼かとも思いましたが、共通の常連さんに様子を聞いてもらったんです。結果的にただの風邪だったので安心しましたが、あの時「聞いてよかった」と心から思いました。数字には出ない部分ですが、これがうちの店の役割の一つだと思っています。

――常連さんの名前や好みは、覚えていますか。

堀内:全員ではありませんが、長く来てくれている方はだいたい覚えています。生姜が苦手とか、ご飯を少なめにしてほしいとか。注文される前にこちらから「今日も少なめですか」と聞くと、驚かれることもありますが、喜んでもらえることのほうが多いです。

――常連さんとの距離感で、気をつけていることはありますか。

堀内:親しくなりすぎて、店主とお客さんという境界線を越えないようにはしています。込み入った相談に乗ることはあっても、そこから先に踏み込みすぎないようにする。あくまで定食屋の店主とお客さんという関係が心地よいところを、なんとなく感覚で見極めるようにしています。

印象的なエピソード

――他に、記憶に残っている出来事はありますか。

堀内:ある常連さんが、奥さんを亡くした後しばらく食欲がなくなって、うちの定食だけは食べられると言ってくれたことがあります。特別なことをしたわけではなく、いつもと同じ味を出していただけです。でも「同じ味がここにある」ということ自体が、その人には意味があったんだと知りました。あれは、自分の仕事の意味を考え直すきっかけになりました。

特別なことをしなくても、同じ味を出し続けることが、誰かの支えになることがあるんだと知りました。

――他にも、心に残っているお客さんとのやり取りはありますか。

堀内:開業してすぐの頃から通ってくれていた常連さんが、お子さんの就職祝いにわざわざうちで食事をしたいと言ってくれたことがあります。特別なコースがあるわけでもない、いつもの定食です。それでも「ここで祝いたい」と思ってもらえたことが、この仕事を続けてきて一番嬉しかった出来事の一つです。

――逆に、つらかったお客さんとのやり取りはありますか。

堀内:長く通ってくれていた常連さんが、施設に入ることになって、最後に一人で食事に来られたことがあります。「もうここには来られなくなる」と言われて、何と返せばいいか分からなくなりました。料理を出すだけの仕事だと思っていた自分に、人の人生の節目に立ち会う場面が、何度もあるんだと知りました。

他店との違い

――他の定食屋との違いは、どこにあると考えていますか。

堀内:チェーン店のように効率よく回すことは、うちには向いていないと思っています。10席しかないので、そもそも回転で稼ぐことができません。だから、一人一人に手をかける方向で勝負するしかない。効率と丁寧さは両方は取れないと分かってから、丁寧さのほうに全部を振るようにしています。

――値段設定についての考えは。

堀内:安さでは近所のチェーン店に勝てません。うちは少し高めですが、素材と手間にお金をかけていることを、味で分かってもらう。値段の話をされたら、安くするのではなく、なぜこの値段なのかを説明するようにしています。

――同業者から見て、うちの店を真似されて困ったことはありますか。

堀内:特にありません。小さな店なので、真似されるほどの規模ではないと思います。それより、近所に同じような定食屋が増えると、街全体としては良いことだと思っています。うち一軒だけが儲かればいいという発想はなくて、この商店街に定食屋という選択肢が残ることが大事だと考えています。

苦労した時期と乗り越え方|妻の腰痛が、店の形を変えた

妻の腰痛と限界

――ランチをやめる直接のきっかけは、妻さんの腰痛だったそうですね。

堀内:そうです。5年ほど前、妻が重い鍋を運んだ拍子に腰を痛めました。病院では、ランチと夜の両方をこのペースで続けたら再発すると言われました。最初はパートを雇って乗り切ろうとしたんですが、この規模の店だと、人を一人増やすだけで利益がほとんど残らなくなることが分かりました。

――他の選択肢は考えましたか。

堀内:厨房の一部を自分一人で回せるように、仕込みの手順を見直すことも試しました。でも、ランチと夜の両方をこなす体力そのものが、妻にも自分にも足りなくなってきていた。年齢的なものもあります。人を増やすか、営業時間を減らすか、その二択でした。

――妻さんは、どう感じていたのでしょうか。

堀内:妻は「私のせいで店を変えることになって申し訳ない」と何度も言っていました。でも、痛めた原因はうちの厨房の動線が悪いことにもあって、妻だけの責任ではありません。むしろ、二人でやっている店なのに、無理を続けさせてしまったことを自分が反省しないといけないと思いました。

――病院からは、どんな説明があったのですか。

堀内:椎間板に負担がかかっているので、重いものを持つ姿勢と回数を減らさないと再発する、と言われました。手術は必要ないレベルでしたが、無理をすれば悪化する状態だったので、生活そのものを変える必要がありました。

――その時、廃業も考えましたか。

堀内:正直、頭の片隅にはありました。二人ともこの仕事しかやってきていないので、店をやめたらどうなるのか想像もつきませんでした。ただ、常連さんの顔を思い浮かべると、やめるという選択肢はどうしても選びたくなかった。だから、やめるのではなく、形を変える方向で考えるようにしました。

ランチの利益を計算した日

――そこで初めて、ランチの利益を計算したそうですね。

堀内:お恥ずかしい話ですが、それまで丼勘定でやっていました。ランチだけの売上、仕入れ、光熱費、そこにかかっている自分たちの時間を紙に書き出してみたら、時給にして800円くらいにしかならないと分かりました。忙しくて、回転もしているのに、儲かっていなかったんです。

――その数字を見て、どう感じましたか。

堀内:愕然としました。25年以上この仕事をしてきて、感覚だけで店をやっていた自分を反省しました。忙しさと儲かることは別なんだと、恥ずかしながらそこで初めて実感として理解しました。それで、ランチをやめる決断をしたんです。

――具体的には、どんな数字が一番響いたのですか。

堀内:仕入れのロス率です。ランチは客数の見込みが立てにくくて、余った食材を捨てることが多かった。数えてみたら、月に数万円分の食材を無駄にしていました。夜だけにしたら、来る人数の見込みがかなり正確になって、仕入れをぴったりに近づけられるようになりました。

――決断してから、実行までにどれくらいかかりましたか。

堀内:計算してから決めるまでは早かったですが、実際にランチをやめるまでは3か月かけました。常連さんへの説明の仕方を考えたり、仕入れ先にランチ分の発注を止める相談をしたり。急にやめると迷惑をかける相手が多かったので、その調整に時間を使いました。

――3か月の間、心境の変化はありましたか。

堀内:最初は「売上を減らす」ということ自体に強い抵抗がありました。25年間、売上を伸ばすことばかり考えてきたので、頭の向きを変えるのに時間がかかりました。妻と何度も話し合って、少しずつ「これでいいんだ」と思えるようになっていきました。

常連への説明、反応

――ランチの常連さんには、どう伝えましたか。

堀内:貼り紙で済ませるのは失礼だと思って、常連さん一人一人に、直接「妻が腰を痛めたので」と正直に話しました。怒られることを覚悟していましたが、怒る人は誰もいませんでした。「それなら仕方ない」「体を大事にして」と言ってもらえて、拍子抜けするくらいでした。

――ランチのお客さんは、その後どうなりましたか。

堀内:半分くらいの方が、夜の時間帯に来てくれるようになりました。近くの職場の方は夜まで待てないので離れてしまいましたが、想像していたより多くの方が形を変えて残ってくれた。ランチでしか会えなかった人とは、正直に会えなくなりましたが、それも含めて自分たちが選んだ結果だと思っています。

――一番心に残っている常連さんの言葉はありますか。

堀内:ある年配の常連さんが「あんたたちが元気でいてくれるほうが、こっちも安心して食べに来られる」と言ってくれました。売上を落とす決断を後悔しかけていた時期に聞いた言葉で、今でも忘れられません。お客さんは、店の都合を思っているより理解してくれているんだと、あの一言で気づかされました。

怒られる覚悟で話したら、心配されました。ちゃんと話せば、伝わるものなんだと知りました。

――売上が2割減ったことに、不安はなかったですか。

堀内:正直、最初の数か月は不安でした。売上の数字だけ見ると下がっているので、周りの同業者に「大丈夫か」と心配されたこともあります。でも、月末に残るお金を計算してみたら、以前より増えていた。売上という表の数字と、実際に手元に残るお金は別物だと、身をもって学びました。

経営の課題・集客・採用|二人で回せる大きさを守る

今の経営課題

――今、経営で一番の課題は何ですか。

堀内:この先、自分たちの体力がどこまで続くかということです。夜だけの営業になって余裕はできましたが、二人とももう若くありません。人を雇う余力を作るべきか、それとも今のまま二人でできる範囲を守り続けるべきか、まだ答えが出ていません。

――具体的には、どんな時にその課題を感じますか。

堀内:市場に立って重い食材を運ぶとき、以前より疲れが抜けにくくなっていると感じます。妻の腰も完全に治ったわけではありません。今は二人で無理のない範囲でやれていますが、あと5年、10年先まで同じペースでいられるかは分かりません。だから、今のうちに次の形を考えておく必要があると思っています。

――健康面で、何か気をつけていることはありますか。

堀内:ランチをやめてから、昼間に体を休める時間ができました。妻は週に一度、整体に通うようにしています。以前は「店を空ける時間がもったいない」と我慢していましたが、体を壊してからでは店自体が続けられなくなる。今は、体のメンテナンスも経営の一部だと考えるようにしています。

――営業時間を変えて、生活のリズムはどう変わりましたか。

堀内:朝ゆっくり起きられるようになったのが、一番大きな変化です。以前は朝5時起きが当たり前でしたが、今は7時過ぎに起きて、市場に行く前に少し余裕を持てます。長年崩れていた生活のリズムが整ったことで、体調そのものも良くなった気がしています。

――今後、店の設備を新しくする予定はありますか。

堀内:厨房の一部が古くなっているので、直したい場所はいくつかあります。ただ、大きな投資をして回収するには、今の売上規模だと時間がかかります。無理に借金をして設備を新しくするより、今ある設備を大事に使い続けるほうが、うちの店には合っていると思っています。

集客の実態

――集客はどうされていますか。

堀内:基本的には口コミです。看板とのぼりを出している以外、広告のようなことはほとんどしていません。ランチをやめてからは新規のお客さんが減ったのではと心配していましたが、常連さんが知り合いを連れてきてくれることが増えて、思っていたより落ち込みませんでした。

――情報発信は何かされていますか。

堀内:去年から、常連さんに勧められて短い日替わりの案内だけを地図アプリの店舗情報に書くようにしています。今日の献立を一言書くだけですが、それを見て初めて来てくれた方が何人かいました。長い文章を書くのは苦手なので、そのくらいがちょうどいいです。

――ランチをやめたことを知らせるのに、何か工夫はしましたか。

堀内:店の前に貼り紙をしたのと、常連さんに口頭で伝えたくらいです。SNSで大きく告知するようなことはしませんでした。うちの規模だと、遠くの人に知ってもらうより、近所の人にちゃんと伝わることのほうが大事だと思っています。

採用で困っていること

――人を雇うことについては、どう考えていますか。

堀内:夜だけの営業なら、実はもう一人雇う余裕は出てきています。ただ、うちのような小さな店だと、覚えてもらうことも仕込みの分量も限られていて、教える時間を作るのがかえって負担になる。フルタイムで人を雇うより、忙しい日だけ手伝ってもらう形が今のところ一番現実的だと思っています。

――夫婦で働くことの難しさはありますか。

堀内:仕事と家庭の切り替えがないことです。店の話が夕食の時間まで続いて、休みの日にも仕込みの相談をしてしまう。ランチをやめて時間ができた分、意識して店の話をしない時間を作るようにしています。それでも、つい献立の話になってしまいますが。

――もし人を一人雇うとしたら、どんな人を採りたいですか。

堀内:手際より、お客さんの顔を見て気づける人がいいです。うちはカウンターだけの店なので、料理の腕以上に、お客さんの様子に気を配れることが大事になります。技術は教えられますが、その気配りの部分は、なかなか教えて身につくものではないので、採用のときに一番迷うところです。

――過去に人を雇った経験はありますか。

堀内:開業して数年目に、一人だけアルバイトを雇ったことがあります。真面目な人でしたが、こちらが指示の出し方に慣れていなくて、うまく力を発揮してもらえずに辞めてもらう形になりました。人に仕事を教えることの難しさを、その時に痛感しました。今、もう一度雇うとしたら、あの時の反省を踏まえて、もう少し丁寧に段階を踏んで教えたいと思っています。

AIとの付き合い方

――AIやITは、お店の仕事に使っていますか。

堀内:正直、詳しくはありません。ただ、地図アプリの案内文を考えるときに、常連さんの息子さんに手伝ってもらって、AIに文章を整えてもらったことがあります。自分が話した内容を、読みやすい形にしてもらう感覚でした。仕込みや味付けの部分は、これからも自分の勘でやっていくと思います。

――帳簿の管理などは、どうされていますか。

堀内:今も手書きの帳簿とレジの記録を、月末に妻がまとめています。クラウドの会計ソフトを勧められたこともありますが、この規模だと今のやり方でも十分に把握できています。数字を細かく見るようになったのは、ランチをやめる計算をした時からで、それ以来、月末の集計は欠かさずやるようになりました。仕入れの単価が上がった月には、すぐに気づけるようになったのも、この習慣のおかげです。小さな店だからこそ、数字への感度は大事だと今は思っています。

今後の展望|この10席を、もう少し長く守りたい

これからやりたいこと

――今後、やりたいことはありますか。

堀内:店を大きくするつもりはありません。むしろ、今のこの10席を、あと何年続けられるかを考えています。無理に規模を広げず、妻と二人で健康に続けられる形を保つことが、今の一番の目標です。もし体力が続けば、70歳くらいまではこの場所に立ちたいと思っています。

――店を継ぐ人については、考えていますか。

堀内:子どもはいますが、この仕事を継いでほしいとは言っていません。継ぐかどうかは本人が決めることだと思っています。ただ、もし誰かに継いでもらえるとしたら、店の大きさや効率ではなく、常連さんとの距離の近さだけは残してほしいと思っています。それがこの店の一番の価値だと思うので。

読者へのひとこと

――同じように、忙しいけれど儲からないと感じている飲食店の方に、一言いただけますか。

堀内:忙しいことと儲かることは別だと、一度きちんと計算してみてほしいです。うちも25年以上、感覚だけでやってきて、痛い目に遭ってから気づきました。売上を落とす決断は怖いですが、手元に残るお金と自分の体、両方を見て決めていいんだと思います。それと、もう一つ。お客さんは、思っているよりずっと事情を分かってくれます。正直に話すことを、怖がらなくていいと伝えたいです。

取材を終えて

「忙しさ」と「儲かること」を切り分けて考える。堀内さんの話は、飲食店に限らず、多くの小さな事業者が抱える問題に通じている。売上を落とす決断を、恐れながらも実行できたのは、妻の腰痛という現実と、正直に向き合ったからだろう。常連さんに正直に話したら、怒られるどころか心配されたという話が、印象に残った。効率を追わず、丁寧さに全部を振る。カウンター10席という小さな箱の中に、経営判断のすべてが詰まっている取材だった。

(取材・文:編集部/取材日:2026年6月27日)

堀内 昇

取材先

堀内 昇

店主/定食 ほりうち

飲食(定食屋)

調理師歴25年。2011年に開業。カウンター10席の定食屋を夫婦で営む。

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